夏空叙事詩

物語について語りたい、たまに小説

完食『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 今回から公式の予告映像を貼ってみました。

 ブログ、もっとこうしたほうが良いかも……みたいな意見あったら、言って下さい~(*´ω`*) 文章わかりにくいとか、ここもっとちゃんと言ってよ、っていうのでも大歓迎です!

目次

1.映画情報


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   リック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ

   クリフ・ブース:ブラッド・ピット

   シャロン・テートマーゴット・ロビー

2.あらすじ※ネタバレなし

 舞台は1960年代ハリウッド。人気のピークを過ぎたTV俳優リック・ダルトンは、自らのキャリアに日々不安を抱いて生活していた。そんな彼の友人クリフ・ブースはリックのスタントを長年務めてきたプロのスタントマンだ。焦るリックに、気ままな生活を送るクリフ……正反対の二人だが、二人はエンタメ業界を生き抜いてきた相棒同士。

 ある日彼の隣に引っ越してきたのはロマン・ポランスキー監督、その妻であり女優のシャロンだった。エンタメ業界の変化を牽引するような、新進気鋭の二人である。その変化に追いすがるために必死なリック……そして事件は1969年8月9日に起きるのだった。

3.消化してみる※ネタバレあり

①無駄のない無駄話?

 タランティーノ監督作品は他に『レザボア・ドッグス』しか見たことがないが、そんな私にも彼の作品の持つ独特の魅力がわかってきた。多分……彼の話は無駄が多い! 無駄、と言ったらマイナスなイメージを抱かせてしまうかもしれないが、言うなれば心地の良い無駄なのだ。

 まず、場面転換が自由。気づけば回想が始まっていて、その回想がすごく重要だったか? と言われたらそうでもない気がする。むしろ、もっと知りたい過去の出来事は他にあるじゃないか。(例えば妻殺しを噂されているクリフの過去とか。)見たいのはブルース・リーをボコボコにしてるシーンとかじゃないはずなんだけど、割とどうでもいい回想シーンが終わった後、なんとなく「まあいいか」っていう気分にさせられる。妙に悔しいな。

 そして移動シーンの始まりは絶対に車。車を運転する美形たちをしばし眺めるタイムが挿入される。射し込む陽光にきらきらと輝くその美貌に、運転を楽しむ表情の魅力的なこと! しかも音楽最高だからもう何も言えない! 無言の運転シーン集めたら10分くらいになる気がするけどな……なんでこんなに満足なんだろうなぁ。

 

②ハリウッドに生きる三人

 ノリのいいヒットナンバーに彩られながらも、落ち目の俳優の現実が映画全体に重い影を落とす。TV俳優として数々のヒット作に出演しながらも、いまや「悪役」として新人俳優に殴られるリックの心情を、ディカプリオの目が、険しい眉間が、血の昇った顔色が表現する。台詞を忘れて撮影で醜態をさらした後のトレーラーのシーンは、こちらまで悲しい気分になってしまうほどだ。繰り返されるカット、切り替わるたびにくるくると変わる心情が、彼の不安定さをも表す。

 対して、新人女優のシャロン。自ら、出演した映画の上映に足を運び、観客の反応にニマニマとしてしまう彼女はなんて幸せそうなのだろうか。そんな彼女は、いつかのリックの姿なのだろう。(あるいは、クリフと一緒になって過去の栄光を振り返っているときの彼だ)

 そしてクリフは本当に自由に生きている。リックの頼みをこなしたり、ヒッピー達と交流したり、犬と遊んでいたり……「気まま」という言葉がよく似合う。彼自身、リックが落ちぶれていくとともに仕事を失っているのに、である。

 このように、一つの映画でありながら、この作品はリック、クリフ、シャロン......三人の全く違う人生が並行して描かれる。リックとクリフは相棒同士だが、二人一緒のシーンよりは、二人が別々にそれぞれの生活をしているシーンの方が多い。シャロンは、単なるお隣さんというだけで、二人とは全く関わりのない生活を送る。

 そしてその三人の人生は、それぞれ「終わり」へと向かっていくのだ。いくはずだったのだが……。

 

③むかしむかし……

 1960年代のアメリカ社会の混乱、そして映画の元にもなっているシャロン・テート殺害事件〉など、背景にある「現実」はしっかりとこの映画に反映されている。タランティーノは現実社会から乖離した世界......幻想の世界を描いているわけではないのだ。

 それなのに、気づけば何もかもが都合よく解決した結末を私たちは迎えている。何とも不思議なことに。

 リックとクリフ、二人のエンタメ界での冒険は終わるはずだった。シャロン含めるポランスキー邸にいた4人は殺されるはずだった。だが、物語は急展開。侵入者のヒッピーたちは返り討ちにあい、犠牲者はゼロ。ポランスキー邸に招かれたリックは、新しい仕事を得るかもしれない。そうすればクリフも仕事をゲットだ。シャロンの子供はまもなく元気に生まれるだろう。なんとなく明るい未来が見えるではないか。

 "Once Upon a Time..." おとぎ話の始まりをタイトルに冠するこの映画は、本当におとぎ話のような終わり方を迎える。

 それを可能にしていて、かつ観ている私達にも納得させるのは、冒頭で述べた「無駄話」のなせる業ではないか。火炎放射器、クリフの強さ、などの直接的な伏線だけでなく、無駄話が挿入される隙がある物語という構成そのものが、現実から乖離させないまま、この物語をどこか空想物語の舞台まで押し上げていっているのだ。