夏空叙事詩

物語について語りたい、たまに小説

完食『マイ・フレンド・フォーエバー』

目次

1.映画情報
  • 公開:1995年
  • 上映時間:97分
  • 原題:"The Cure"
  • 監督:ピーター・ホートン
  • 脚本:ロバート・カーン
  • キャスト

   エリック:ブラッド・レンフロ

   デクスター:ジョセフ・マゼロ

   リンダ(デクスターの母):アナベラ・シオラ

2.あらすじ※ネタバレなし

 隣の家の息子はエイズだから近づいてはいけない。

 そんな母親の言いつけを破って乗り越えた塀の先、エリックはかけがえのない友デクスターを得た。二人はエイズの治療法を求め、遠いニューオーリンズを目指して旅をすることになるが……

3.消化してみる※ネタバレあり

※穿ちに穿った見方をしています。書いた後、マジで自分最悪な見方したな?? って思ったので、感動を感動のままにしたい方は読まないでください。

 ナンダコレくだらない意見だ、って笑い飛ばせる人だけ読んでください。むしろ反論とか意見が欲しいのでコメント待ってます!

①自由なのは?

 どうしてもモヤついてしまうのは主人公エリックの反抗心、その行き先が“the cure”であるということだ。

 エリックの両親は離婚をしていて、母親は仕事を優先し自分の意見が絶対! 親の言うことを聞きなさい! な典型的な毒親である。デクスターの母親リンダがデクスターと触れ合う明るく和やかなシーンと、暗い部屋で煙草を吸うエリックの母親とエリックが会話をするシーンは嫌になるほど対照的だ。

 身体的に自由なのはエリックだが、心理的な側面を見たときにデクスター以上に不自由さを味わっているのはエリックではないか? エリックは常に抑圧された環境で生きている。その抑圧されたものが爆発する最初のシーンが、不良に石を投げる場面である。

 

②石を投げる
 スーパーの帰り道、エリックは不良に声をかけられた時点でおもむろに石を握りしめる。不良を説得したことで一度は場が収まったかに見えた……が、不良がデクスターに言った「同情するよ」という言葉で結局石を彼に投げつけた。

 果たしてこれはどういう感情で石を投げたのだろうか? 素直に読み解くなら、親友に同情を向けられたことに対する苛立ちだ。しかし、本当にそれだけだろうか?

 もちろんその怒りはあると思う。しかしどこかで、常にエリックは「理由」を探しているのだなと思ってしまった。”石を投げる“理由である。

 その後、彼は母親にキャンプ行きを命じられ、ニューオーリンズに向かうことを決意する。エイズの治療法を探すために……これはデクスターにとっては初めての大冒険だ。しかし、同時にエリックにとっての「逃避行」でもある。

 

③”My Great Escape

 結論から言ってしまえば私は、この映画で描かれている「治療法探し」全てがエリックにとっての口実なのではないか、と思ったのだ。

 もちろん彼の優しさに嘘はない。治療法を探したい、デクスターを助けたいという願いは本物だろう。だが、その優しさの発露のシーンと子供じみた無邪気さでお菓子や草を試すシーン、デクスターに無理をさせるシーンが、あまりにちぐはぐではないか。

 傾いた天秤の重い方...…彼の「デクスターを助けたい」という願いに隠れるようにして、彼自身の利益やエゴがしっかりと乗っている、そんなイメージを抱いた。(どんなイメージ)

 エリック自身はそのエゴに気づいているのか、それはわからない。しかし私は、気づいていたのではないか? と思う。

 デクスターが亡くなった後の車内、リンダに向かって彼はデクスターの死を自分のせいであると言い、「治療法も探せず……」と言いかける。それは当のリンダによって否定されるが、彼はあえて自分の責任について言及し、それを否定されたかったのではないか?

 エンドロール、挿入歌のタイトルが流れる。

”My Great Escape

 デクスターにとっても、エリックにとっても、短い旅が辛い現実からの逃避行であったのには違いない。しかし、そこに滲み出るエリックのエゴに、単純な「友愛の話」とは思えなくなってしまった。

 

④人間の物語

 散々くどくど水を差してきたが、最後に言いたい。

 これこそ人間の物語だ。とてもとても人間的だ。

 打算があるからといって、その友愛が全て嘘に変わるわけではない...…。それに打算とも言えないかもしれない。そこにはまだ幼いエリックの純粋な願いがあるばかりだ。デクスターを助けたい、自由が欲しいという願いが。

 デクスターの"the cure"は最後まで見つからなかった。しかし、エリックの友人を想う心が、彼自身の境遇の"the cure"までこの物語を導いてくれた。

 こんなに穿った見方をしていて何を、と思われるかもしれないが、私はこの映画が好きだ。死出の旅路に添えられる一足の希望や、二人の消えない友情には素直に泣くしかない。